ハッピーハッピーバレンタイーン。
タワータイクンなんじゃそりゃー。
厨房から奇妙な音がしている。
鼻歌混じりの怪音波に思わずツッコミをいれてしまう。
「なんじゃそりゃー」
「ルック、どうしたのですか?」
「い、いたんですか」
「ええ、ずっと」
実のところあの音声は師のものとばかり思っていた。
「明日はバレンタインデーですからね」
質問できない雰囲気だが真意をはかりかねる。
困惑していると彼女はいつのまに、いなくなっていた。
「なんじゃそりゃー」
ヒヨッコでもわかる現代語辞典。
結構古いがいろいろ勉強になる本だ。
「えーと、女子が意中の男子に慕情を伝える……?」
自分と師を除いた場合、この塔の残る住人は。
「……」
立ち上がったとき、ひよこ現代語辞典を落としてしまった。
足に。
「なんじゃそりゃー」
自然と、引きつった笑みになってしまう。
単に、足が痛いだけなのだ。だけなのだ。
翌朝、食事のあと、ぼくは逆さと気づかずに本を読んでいた。
「ルックさま……あの」
「せら、なにだい?」
「……?」
平常心平常心平常心平常心へいえ……っつ。
舌が痛い。
「これ、なのですが」
「え?」
それはそれは可愛らしい濃ピンクの包み。
「今日は何の日かご存知ですか?」
「いやあ、俗世間では、バレンタインデーらしいね、どうにも」
つまり、だ。
「チョコレートを、もらっていただきたくて」
「セラ……」
やはり手塩をかけて育てた子は、そうだ、なんだ。
「原材料であるカカオから丁寧に作り上げ」
「ありがとう。じゃあ早速、いただきまーす」
「カナカンから取り寄せたぶどう酒と」
おいしい、おいしいなあ。
「まあその分すごく手間はかかるんですけど」
「……恩着せがましい」
は、しまった。ぼくとしたことがつい思ったことを。
「ルックさま! せっかくセラが丹念に作」
「ごごごごめんセラ! すごくおいしいよ!」
「よかった。私ったら友チョコなのに数が少ないからって、滅茶苦茶手間暇かけてしまって」
ともちょこって何だろう……。
チョコレートの種類なのだろうか?
なんとなく、セラから知り合いが少ない感じのオーラが出ているような。
「ところでルックさま、ホワイトデーってご存知ですか?」
セラはこんなに綺麗に笑えるようになったのか。
まっすぐな子に育ってくれてよかった。
「よく知らないな、何なんだい?」
「実は、セラも良く知りません」
まだ幼さを残した笑顔が大変愛らしい。
「あはは、しょうがないなセラは。
こんどぼくが調べておいてあげるよ」
「わあ、ありがとうございますルックさま!」
それからまた彼女は非常に可愛く笑った。
がんばっちゃうぞ、がんばっちゃうぞ。
そうしてぼくは、スキップ混じりにヒヨッコ辞典を捲りに行った。